NEWSニュース

2019/06/10 | KAJIMOTO音楽日記

●アルミンク&王立リエージュ・フィル 来日直前!――ルクー「弦楽のためのアダージョ」、タン・ドゥン「ギター協奏曲 Yi2」のこと


今回のベルギー王立リエージュ・フィルの来日公演プログラムの中で目を引くのが、
ルクーとタン・ドゥンの作品。

タン・ドゥンは現代中国・・・いや今や世界を代表する鬼才作曲家のひとりですが、彼はギター協奏曲を書いていたのか!
そしてルクーって誰?・・・ベルギーの、まさにこのリエージュ生まれでかのセザール・フランクの弟子。24歳で夭折した悲劇の作曲家です。

今度演奏されるこの2曲について、公演プログラム冊子に掲載する曲目紹介文を以下に転載しますので、ご一読いただき、興味をもっていただければ幸いです。




ルクー: 弦楽のためのアダージョ

 ギョーム・ルクー(1870~94)はベルギーのヴェルヴィエ出身の作曲家。9歳でフランスに移住、1889年(19歳)パリ音楽院の教授だったセザール・フランクに作曲を学ぶが、翌年フランクが馬車事故の後遺症により死去してしまう。その後フランクの門下だったヴァンサン・ダンディに学び、91年、ローマ賞コンクールに応募して2位となる。ローマ賞はフランスの作曲家の権威ある登竜門としてよく知られており、2位というのも素晴らしい成果なのだが、ルクーは1位を取れなかったことに落胆し、受賞を辞退した。ところが、この2位受賞作のカンタータ「アンドロメダ」をベルギー出身の世界的なヴァイオリニスト、イザイが耳にし、ルクーにヴァイオリン・ソナタを委嘱し、93年イザイの演奏によりブリュッセルで初演された。そして彼の年譜はここで途切れてしまう。翌94年、食べたシャーベットがチフス菌に汚染されていたため、腸チフスで亡くなったのである。
 ローマ賞の2位という点だけ見ても、ルクーが将来有望な才能の持ち主だったことはうかがい知れる。とはいうものの、30代で早世した大作曲家は多いが、20代の短命というとさすがに見当たらず、唯一の例外として瀧廉太郎(23歳 結核)が思い浮かぶくらいだろうか。

 《弦楽のためのアダージョ》は1891年ごろに作曲された。曲調全体が沈痛で悲哀の情感に覆われているところから、前年に亡くなった恩師フランクへの追悼の意味が込められているのかもしれない。フランクはルクーと同じベルギー出身だったこともあり、21歳の多感な若者にとってその死はことのほか感情を揺さぶられるものであっただろう。構成も主題の扱いもシンプルだが、安定した表現力を感じさせる小品であり、密度の濃い響きには初期のシェーンベルクやベルクのような世紀末的な緊張感が時折漂っている。




タン・ドゥン: ギター協奏曲「Yi2」

 タン・ドゥン(1957~)は現代中国を代表する作曲家であり、いま世界で最も作品委嘱が多い作曲家のひとりである。映画《グリーン・デスティニー》や《ヒーロー》の音楽を担当し、アカデミー作曲賞やグラミー賞を受賞したこともある。
 彼は中国音楽院で学んだ後、1985年ニューヨークに移住してコロンビア大学で学び、ケージ、ライヒ、グラス、モンクなどのいわゆるエクスペリメンタル・ミュージック(実験音楽)の洗礼を受けた。これが彼の創作のベースのひとつになったといえる。また、それ以前には武満徹の音楽からも強い影響を受けており、武満の作品と同様、タン・ドゥンの作品にも「水」をテーマにしたものが多い。彼の作品は、《オーケストラル・シアターⅡ:Re》(初演)、ホールオペラ《TEA》(初演)、《門》、オペラ《マルコ・ポーロ》、
《オーガニック三部作》など、これまでも日本でたびたび演奏されている。

 ギター協奏曲《Yi2》(1996)は、ドナウエッシンゲン音楽祭のためバーデンバーデンの南西ドイツ放送から委嘱され、シャロン・イズビンのギターとフランス国立管弦楽団により初演された。管弦楽曲の《Yi0》、チェロ協奏曲の《Yi1》とともに三部作を構成している。タン・ドゥンによれば、「Yi」とはYi-Ching(易経)、すなわち儒教の古典である五経のなかの易経のことで、訳するなら《易1》とか《易2》としたほうがよいかもしれない。易の思想を学ぶことで「偶然性の音楽」を作り出したのはジョン・ケージだったが、タン・ドゥンは「易経を通して“顕在”と“潜在”のバランスをとる方法は無限にあることを学んだ」と述べており、それがこの作品に反映しているらしい。
 独奏ギターの音素材はスペインのフラメンコ音楽からとられたもので、ギターの扱いにおいては、スペインのフラメンコ・ギターと中国のピパ(琵琶)という異なる民族楽器の融合と対比が意図されている。
 全体は、Rubato/Adagio/Andante agitato/Cadanza/Ending の5部分から成る。


文: 塚田 れい子(音楽学)
 


【チケットのお申込みはこちらから】
 

PAGEUP