ルツェルン祝祭管弦楽団(LFO)の来日初日公演まで、あと1週間となりました。メンバー・インタビュー連載の9人目は、前回ご紹介した御大ヴォルフラム・クリストの息子、ラファエル・クリスト。
若かった彼も、今回はLFOのコンサートマスターに!
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Raphael Christ ラファエル・クリスト
創立時からLFOに参加。第2ヴァイオリンの首席を長く務め、満を持して2017年夏の《ツァラトゥストラはかく語りき》からコンサートマスターとなった。ボーフム交響楽団に高待遇で正コンサートマスターに招かれている他、ケルン室内管でも正コンマスの任にある。その他、ゲスト・コンマスとしても活躍は広く、ジョナサン・ノットのバンベルク響最終公演や、つい最近のシャイー指揮スカラ・フィルのツアー、またミュンヘン室内管その他、数多くのオーケストラに登場している。
2003~06年にはアバドの指導するマーラー・ユーゲント管のコンサートマスターも任されており、04年4月のローマ公演でのマーラー交響曲第9番の市販映像ソフトでは、当時の彼の姿を観ることができる(同公演にはオーボエのルーカス・マシアス=ナバロやファゴットのギヨーム・サンタナ、ホルンのジョゼ・ビセンテ=カステジョらも参加している)。
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――LFOの魅力とは何ですか?
「私にとって、LFOの魅力は、皆がここにいることです。誰もがここで自由な時間を過ごし、一心不乱にあらゆるエネルギーと愛情をこのオーケストラに注ぎ込みます。私たちは実際に一緒に育ちましたし、学校も一緒でした。年齢的には私はまだメンバーの中で若い世代に属していますが、私たちはこのオーケストラでは13年間も皆一緒に成長してきました。多くの人々がここでとてもよい友達を得ています。私の場合は実際の家族もメンバーで、私の席の向かいには父がいますし、ハープには姉がいます。なので、とても特別な夏と、その後のツアーというわけです。皆が本当にここに来て音楽を一緒に作りたがっている。これは実に特別な雰囲気ですよ」
――LFOの秀でた点は何でしょう?
「もちろん、各プレイヤーが技術的にきわめてレヴェルが高いことです。誰もが楽器を自在に扱えて、とてもフィット感があります。また、ここに集った各オーケストラのトップスターたちは、有り余る個性を持ち、たくさんの個人的な音楽的アイディアやインスピレイションをもたらしてくれます。そういう人たちがオーケストラのすべてのパートに揃っているんです。その上、ソリストと室内楽奏者もいて、本当に洗練された偉大なミュージシャンたちばかりというところですね」
――その他にLFOの特徴は?
「非常に柔軟なオーケストラだと思います。それはいかなる状況でも反応が信じられないほど速く、かつうまくできるということです。そして、お互いをしっかりと聴き合い、創立者のアバドが教えてくれたように、室内楽のように一緒に音楽を作っていくに慣れています。そうすることで、素晴らしく特別な瞬間が生まれるのです。また、デュナーミクの点でも、極端なソフトさからスケールいっぱいの巨大な音まで可能でもありますね。真に特別なオーケストラです」
――アバドを失った後、LFOはどのように変化しましたか?
「私たちはまだ変化の過程にいると思います。明らかにこう変わったと特定の例を挙げて言う段階にはまだなく、長い変化のプロセスの途上にいるのだと。
私たちはアバドが亡くなったことで、これから変化を感じ始めるかもしれません。しかし、リッカルド・シャイーはまったく違って、とてもポジティヴです。私たちはあまり考えすぎてはいけないと思うんです。私たちはクラウディオ・アバドから多くを学び、また皆個人的で素晴らしい思い出と、音楽にどう向き合うべきかという考え方を教えてもらいました。今は、自分たちには何ができるのか、今後どうするのかを考える時なのだと思います。我々に必要なのは、どの方向に進むべきか、そしてまた何が起こっているのかを見極めることです。
今回、最初のシュトラウスのコンサートは、信じられないほどパワフルでエネルギー満載でした。オーケストラの音はわずかに変わったと思うかもしれません。しかし、何が変わったのかを正確に言うのは難しい。私たちは皆で変化のプロセスの中を歩んでおり、それを進んで行くつもりです。そうすれば、私たちがどのように変化していくかわかるでしょう」
――アバドとシャイーの違いは何だと思いますか? 音楽のタイプやリハーサルの進め方とか……
「リッカルド・シャイーはリハーサルの進め方が見事ですね。彼は自分が聴きたいこと、達成したいことに対するコンセプトをはっきりと持っています。そしてそれをどのように達成するかについても非常によい考えを持っていました。無駄がなく実務的です。本当にとても特別です。逆にアバドのリハーサルは、何かが起こるかを見つけるプロセスの時間でした。もちろんアバドも彼自身が望む明確なアイディアを持ってはいます。ただ、リハーサルはとても違っていました。
今、私たちは以前とは随分異なる時間を過ごしています。違いというのは、アバドは5日間のリハーサルをとり、4日間はセクション・リハーサルにあてました。今私たちにはそれよりずっと少ない時間しかありません。今回はプログラムが3つあり、どれも非常に難しいプログラムなので、リハーサル時間はほとんど余裕がありません。このような理由から、リッカルド・シャイーのように、活発で正確にリハーサルができる指揮者はきわめて重要です。これがおそらく最初に感じた大きな違いかもしれませんね」
――機能的、合理的なリハーサルというわけですね。
「ええ、まさに。実に知的で、スコアを隅々まできわめてよく知っていて、200%準備されています。素晴らしいことですよ」
――LFOの音や、あるいは本拠地ホールのKKLに足を踏み入れた時などにアバドや彼の音楽の存在を今でも感じることはありますか?
「私をはじめ、クラウディ・アバドと多く一緒に働いた音楽家にはホールは必要ではありません。私たちは心の中に彼が存在していますから。私たちは生涯をかけてこの心を守っていきます。長きにわたって驚くほど素晴らしい音楽を体験させてもらったことを忘れることなどできません。だから、KKLの中にいることは必ずしも必要ではないんです。コンセルトヘボウであろうと、その他どこに出かけようと、彼から学ばせてもらったものにいつも感謝しています。私が音楽を始めたときはとても幼かったので、最初は随分と甘やかされもしました。彼が音楽の魔術師だと気付いたのは、18か19歳の時でした。忘れられません。私はオーケストラというものを90%、いや99%、マエストロ・アバドから学んだと言ってよいと思います。LFOの多くのメンバーも同じように感じているでしょう。彼が亡くなった日は我々の心に刻み込まれ、彼のことを忘れることはなく、演奏する時はいつもステージにその記憶を持って出るんです」
――シャイーはLFOにどのような新しいものをもたらすと考えますか?
「もちろん、彼は音楽性、個性など、あらゆる個人がそうであるように、誰とも異なっています。それと、様々なレパートリーを持っていますね。私たちは何年もの間、いつもマーラーやブルックナー、時にモーツァルトを数多く演奏してきましたが、今回はロシア楽派とシュトラウス、メンデルスゾーンを演奏します。これらの曲をLFOが演奏したことはかつてありません。レパートリーがとても違って面白いですし、曲数も多いので、向き合う方法も異なります」
――これはとても重要な質問ですが、新しいコンサートマスターはLFOにどのような新しいものをもたらすのでしょうか?
「それは他の同僚に尋ねてもらわないと(笑)。何をもたらせるかはわかりません。しかし私にとって、非常に大きな喜びと栄誉です。《ツァラトゥストラはかく語りき》のような長くて大きなヴァイオリン・ソロを弾かせてもらうのも同様です。
これまでルツェルンには第2ヴァイオリンを務めるために来ていました。これはルツェルンだけです。もちろん第2ヴァイオリンであることは素晴らしいのですが、私の本来の仕事はコンサートマスターなので、日頃やっていることとは別のポジションでした。そして今回、私は自分が座って好きな席、座り慣れた席に座ることができてとても満足しています」
――昨年の夏は、珍しく2つの内ひとつのプログラムで降りていましたよね。
「そうなんですよ。バルタザール=ノイマン管のツアーに参加していました。このオケの美しさを、中から学んでみようと。トーマス・ヘンゲルブロックは素晴らしい音楽家ですので、チャンスを狙っていたんです」
――あなたにとってLFOとは何ですか?
「一言で言えば、“家族”です。私はここに集まる多くの人と一緒に育ちました。また多くの者がマーラー・ユーゲント管弦楽団の出身です。マシアス=ナバロなども、まだ小さな子供の頃から一緒にアバドが教えていたユース・オケを始めた仲で、一緒に成長しました。多くの友人がいて、実際の家族もいる。帰省みたいなものです」
――前回の初日本から11年を経て、待望の再来日公演があります。このツアーの注目すべき点は何ですか?
「もちろんプログラムです。特に私にとっては、ソロを日本で披露できるのをとても楽しみにしています。日本は皆親切であたたかく、礼儀正しい素晴らしい人たちなので来るのが大好きです。食べ物も美味しいですし」
聞き手・文・写真: 松本 學(音楽評論家)
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