NEWSニュース

2017/09/16 | KAJIMOTO音楽日記

●シャイー&ルツェルン祝祭管弦楽団 来日を前にVol.3―― メンバーに聞く(6)ヨルゲン・フォン・ライエン(Tb)




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヨルゲン・ファン・ライエン Jörgen van Rijen

オランダ出身のトロンボーン奏者。ロッテルダム・フィルの首席を短期務めた後、1997年にロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席となり、今や同管のフロント奏者のひとりとして名高い。LFOには2007年から参加。その年のマーラーの交響曲第3番でソロを吹いているのも彼である。
 

● ● ●


―― ルツェルン祝祭管(LFO)に参加されたのは2007年でしたね。マーラーの交響曲第3番でトロンボーンの大きなソロを吹かれたのを今でも覚えています。

「ありがとう。その前年の2006年にLFOの日本ツアーがあったんですよね」


――LFOの魅力的な点はどんなところですか?

「たくさんありますね。まず第一に、素晴らしいミュージシャンが集まっていることです。偉大な音楽家たちと演奏するのは常に大きな喜びであり、互いにアイディアやインスピレーションを得ることもできます。もちろん私はとても幸運で、年間を通してコンセルトヘボウ管で演奏していますが、そことは少し違って、LFOはここルツェルンに友人たちが2週間だけ集まり、皆で一緒に集中して音楽を作り上げるオーケストラなのです。2つ目は、異なったオーケストラや様々なバックグラウンドを持った人々の集まりという一風変わったコンビネーションです。これはとても魅力的です。メンバーには室内楽専門のプレイヤーもいて、彼らは我々とは逆に、通常これが年に唯一オーケストラで演奏する瞬間ですしね。これは特別に興奮させられますよ。もちろん、ほとんどのメンバーはアバドのためにやってきます。皆アバドの友人ですし、彼と一緒に演奏したくて1年のこの時期を割いてここで過ごすのです。その関係が、LFOを既存のオーケストラよりも特別なものとしました。我々はそれを今、シャイーと共に続けようとし始めたわけです」


――メンバーはそれぞれが様々な音楽的な伝統、文化、教育を持っています。短期間にそれらをどうやって集約するのでしょうか?

「マーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)で一緒に演奏している人たちがたくさんいるというのはよいことだと思います。そのおかげで100人全員が違うという事態にはなってきません。また、以前MCOでアバドと演奏したことがあるというプレイヤーも多くいます。これが音楽づくりの基盤となっています。まったく違う楽派の集まりではありません。確かに、コンセルトヘボウ管やベルリン・フィル、ウィーン・フィルなどの自動的に演奏できるような要素に欠けています。これらのオケは100年以上の伝統がありますからね。LFOは10年ちょっとの伝統ですし、それも年に2週間ですから。しかし、皆きわめて優れた音楽家ですから、耳をオープンにし、共通の方法を見出そうと試みるわけです。私は常に、アンサンブルにおける最も重要なルールは、正しい者はいないと言うことだと考えています。皆が互いに近付こうとし、互いの演奏の中間点を探り当てようとすることです。LFOではこれが驚くほど早い。皆が集まって練習を開始して、1日2日でいつもこれができるのです。何年も一緒に演奏している人たちがほとんどですからね」


――マーラー・ユーゲント管時代から一緒のメンバーも少なくありません。

「そう。LFOはコンセルトヘボウ管の他にも、例えばミラノ・スカラ座やMCO、元ベルリン・フィル、ミュンヘン・フィルといった5ないし6ほどのグループからのメンバーで構成されています。つまり、100人がバラバラではなく、何かしら以前から互いに知っている者たちが多いのです」


――その他にLFOの特徴は何でしょう?

「中にいる側からは、言うのが難しいですね。外側からの方がわかりやすいでしょう。とても強く、中欧的で大きなボディのあるサウンドだと思います、そして、何て言うんだろう、エネルギーや興奮と熱狂に満ちているというか。ほとんど皆がソリストたりうるメンバーで、それが一丸となって演奏する特異なオーケストラなので、あちこちにパワーが漲っています。これは大音量を出せるということではなく、ソリスティックなパワーがあり、そこに必要とされるモデルに即座に対応できるということで、実に重要です」


――あなたの所属するコンセルトヘボウ管とLFOとの違いは? 優劣の問題ではなく。

「ああ、これも答えにくいなぁ。確かにどちらかがよいといった方法で比較はしたくありません。両者ともに唯一無二であり、きわめてハイ・レヴェルだと思うからです。もちろん、先にも触れたように、既存のオーケストラでは20年前から一緒に弾いているので、オートマティックな要素がいくらかあります。その点でどこか楽ではありますね。一方で、その伝統のために何かしら難しいことがあるのも事実です。でも、互いに音楽づくりのやり方はまったく同じ方向を向いていると思います。違いといえば、伝統あるオーケストラはより安定していますが、時に何かを変更するのが難しい。その点、LFOはすべてが柔軟です。しかし、どちらかが優れているとは言えません。どちらも素晴らしい音楽家ばかりで、どちらも本当に強い独自のキャラクターを持っていて素晴らしいと思います」


――アバドを失った後、LFOはどのように変わりましたか?

「もちろん、何かが変わったように感じます。なぜなら、我々はアバドのためにここに来ていましたし、アバド自身が我々をともに演奏するよう選び、招いてくれたからです。このオーケストラは誰もがアバドとつながっていました。しかし、突然彼はいなくなってしまいました。ルツェルンに来ても彼の姿がない……不思議な感覚です」


――新しくシェフに就任したシャイーとは、かつてコンセルトヘボウ管でもご一緒でしたよね。彼の音楽の魅力は何ですか?

「7年間一緒でした。彼はエネルギーに溢れています。彼は実にエネルギッシュで、リズムに強く、グルーヴィーで、タイトです。音楽が非常にドラマティックであることをよく理解していますね」


――シャイーはLFOにどのような新しいものをもたらすでしょうか?

「異なるレパートリーですね。我々はアバドと共にマーラーやブルックナーを中心にやってきました。そして今、シャイーのもと、リズミカルな作品を採り上げるようになりました。このタイプの作品がうまいのはアバドよりもシャイーの強みです。だからおそらく彼はそのあたりの点で、LFOの新たな魅力を引き出してくれるでしょう」


――あなたにとってLFOとは?

「最も重要な音楽家の友人のグループ。友情で結びつき、夏の短い一定期間に共に集まって演奏し、多くのインスピレーションやアイディアを得る場であること。以前はこの時期には夏休みをとっていました。今はLFOに来ていますが、それはコンセルトヘボウの次のシーズンのためのリロードとも考えています。ここで多くのエネルギーとインスピレーションを得るので、シーズンを始めることができるんです」


――今回のツアーで注目する点は何でしょうか?

「ストラヴィンスキーと、たっぷりのR.シュトラウスによるとても美しいプログラムです。練習に入るまではちょっと多すぎると思ったのですが、やってみたら1回のコンサートで3つのシュトラウスのストーリーを聞くのもいいなと思いました。《春の祭典》は言うまでもなく音楽史上最も重要な作品のひとつです。さらに、我々がまだ演奏しておらず、このツアーで初めて披露するベートーヴェンでもあります。これらの新レパートリーと、指揮者、演奏者のクウォリティのコンビネイションだと思います」


――日本のファンにメッセージをお願いします。

「私はたくさんの日本の友人に再び会え、演奏できることをとても楽しみにしています。音楽に強い関心と知的好奇心を持った熱心な聴衆がいるので、日本で演奏するのはいつも大いに楽しいものです。それに素晴らしいホールがありますね。サントリーホールはやはりよいホールのひとつで、とても素敵です。ミューザ川崎や東京文化会館、東京芸術劇場もいいですね。ずいぶん前にシャイーとここで《プルチネッラ》をやったことがあります。ピラミッドみたいな建物でしたよね。その他では名古屋はちょっと大きいけれどもいいホールです。あとは福岡、福井も素晴らしい。京都は大作をやるにはちょっと小さめですが、とても素敵なホールです。NHKホールはかなり大きいですねミュージシャンにとっては美しいものを演奏する最高の環境です。日本の聴衆の前でベストを尽くそうとすると、本当に報われます。国によっては、ちゃんと聴いてくれないところもありますが、日本ではそんなことはありません。それはとても特別なもので、私は日本に行くのが大好きです。今年も3回行くことになっているくらいです。食べ物も美味しく、音楽に熱心でよい人も多い。だからとても居心地がいいんです」


――そういえば、お嬢さんのお名前が……。

「長女はアミというんですが、日本の友人の名前からもらったんですよ」
 


聞き手・文・写真: 松本 學(音楽評論家)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【チケットのお申込みはこちらまで】
 

PAGEUP