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2017/09/15 | KAJIMOTO音楽日記

●シャイー&ルツェルン祝祭管弦楽団 来日を前にVol.3―― メンバーに聞く(5)フランチェスコ・セネーゼ(Vn)




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フランチェスコ・セネーゼ Francesco Senese

セネーゼ(1976~)はセルゲイ・クリロフ、パヴェル・ヴェルニコフ、ヘルマン・クレバースらに学んだヴァイオリニスト。アバドが2004年に創設したモーツァルト管弦楽団に06年から参加、現在は同管の副コンサートマスターのポストにある(アバドとモーツァルト管のドキュメンタリーDVDには彼のインタヴューも収録されている)。ルツェルン祝祭管(LFO)には翌07年から参加(その経緯はこのインタヴューをご参照ください)。マーラー・チェンバー・オーケストラをはじめ、ミラノ・スカラ座管などイタリアのオーケストラのゲストにも多く招かれている。

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――LFOの魅力的な点は?

「まず第一に、毎日毎晩ではなく、限られた期間にのみ演奏するオーケストラだいうことだと思います。そのために、プレイヤーたちは一層強く共に演奏したいと思うのです。互いに長く知り合いで、1年に1度再会し、ツアーをする。それが新鮮でユニークなこのオーケストラのエネルギーの源のひとつなのだと思います」


――どうユニークなのでしょう?

「皆がその1年に過ごして来た自分の経験をここに持ち込むという点。音楽は人間の生活に大きな影響を与えていますからね。それぞれが様々に異なった経験をしています。だから互いに自分たちの音楽的、芸術的創造性においてとても刺激されるのです。そして、皆が異なる経験を生きている僕たちが年に一度だけ一緒に集まるので、実にユニークなんです。もし僕らが同じオーケストラで、同じ場所で、同じメンバーで一年間演奏したら、僕らのパワーは、ここまで強くて新鮮ではないかもしれません。そして、LFOは特に色々な個性的なメンバーがミックスされたオーケストラなので、サウンドもとてもユニークだと思います」


――LFOのサウンドの特徴は?

「僕自身、このオーケストラには常に驚かされています。LFOの音質はとても深くパワフルですが、同時にとても透明で明るく輝きがあり、実に洗練されたオーケストラにもなりうるのです。暗さと色彩のあらゆる側面を失うことなく、力強さと透明感が両立しています」


――皆がそれぞれの経験を持っていると言いましたが、皆の異なるアイディアをどのようにしてひとつの演奏に集約するのでしょう。

「国や伝統、学校が異なるで誰かと会うだけでも、それは常に重要なポイントです。その上、ヨーロッパ各地や世界中から来ている人々、目的や学校、教育が異なる人々と演奏するのは一層チャレンジングなことです。もちろん僕たちは何年もの間、師からお互いを聴き合う状態に置くようトレーニングされてきたと思います。クラウディオ・アバドは私たちが共に音楽を作る上で、毎秒、いやあらゆる瞬間にお互いに耳を傾けなければならないことを僕たちに徹底して求めていました。オーケストラの中で、異なる者たちとの関係の中で、コンタクトをとりながら耳をオープンにして聴き合うという方法で僕らは鍛えあげられたわけです。もちろん、これらのエネルギーやアイディア、異なる演奏法をひとつに集めて演奏するのは指揮者の責任でもあります」


――そのアバドに初めて会ったのはいつですか?

「2006年の4月か5月頃。僕にとってボローニャのモーツァルト管弦楽団での最初のシーズンで、この時だと思います」


――アバドを失った後、LFOはどのように変化しましたか?彼がこの世を去ってからの3年間、ネルソンスやハイティンクも指揮しましたが。

「このオーケストラは変化することにまだ抵抗していると僕は思っています。なのでまだ変わっていません。必要があればどの方向にでも行けますが、アバドのリーダーシップで始まったこのオーケストラが持っていたものはまだここにあります。今、ミュージシャンと新シェフはどこに向かうかを決める責任がありますが、LFOのクォリティの要素であるカラーや芯の部分などはまだ維持されていると思います。先に触れたサウンドも然りです。成熟する姿を見せてゆくとは思いますが」


――あなたはまだLFOでアバド自身の存在や彼の理想、夢、精神、音などを感じていますか?

「ええもちろん。誰かと音楽を作る時には特別なものを生み出すわけで、同じ相手の時ですら毎回出てくるものは異なります。なので、オーケストラという集団は一種のアイデンティティなんです。現在は別の指揮者と一緒に作業しています。そしてもちろん、他の人物とも反応します。そうではあるのですが、僕たちはアバドのためにここに集まり、ここで演奏する上での音楽家同士の関係を作り上げてきました。僕はクラウディオ・アバドと過ごした10年間からとても大きな影響を受けていると思います。ですので、彼はまだあちこちに存在感を示していますよ」


――そのような中で、シャイーはLFOにどのような新しいものをもたらすでしょう?

「僕らは昨年、マーラーとブルックナーを続けて来たアバドとの10年以上にわたる円環を閉じました。僕たちはこの2人の作曲家の作品を多く演奏してきました。そして今年、私たちはすでにシュトラウス、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー、メンデルスゾーンと4人の異なる作曲家の作品を演奏しています。シャイーはLFOのレパートリーを拡大し、他のカラーを見つけようと考えていると思います。これはとても挑戦的でかつ興味深いプロセスになるでしょう」


――あなたにとってLFOとは何ですか?

「まずひとつは夢のようなものであることですね。何年も前、LFOが始まろうという時に友人と話していたことを覚えています。僕はクラウディオ・アバドがルツェルンで新しいオーケストラを始める予定を耳にし、クラウディオと親密なマーラー室内管がLFOの中で演奏することも知っていたので、どうにかオーディションを受ける方法を知らないか?と友人に尋ねたんです。その後、モーツァルト管弦楽団を創設した1年後に私を招いてくれました。私の夢はいつもクラウディオ・アバドと一緒にツアーをすることでしたから、最初は蜃気楼でも見ているかのように夢心地でした。ボローニャで彼と親しくなるチャンスを得た後に、LFOから招待を受けました。まだその瞬間を忘れられません。アーティスト担当のヘッドであるクリスティアーネ・ヴェーバーから電話があり、クラウディオ・アバドがあなたをルツェルンに招待したと伝えてくれたんです! ほとんどショックでした。僕にとっては、とても信じられないこととなりました。そしてそれ以来、何年にもわたって、この愛すべき街に通っています」


――これまでに日本にいらしたことは?

「これまでに2度行っています」


――2回も!?

「ええ、まず最初はずいぶん前、確か1994年にコモ音楽院(ミラノのヴェルディ音楽院)の学生オーケストラのメンバーとして行きました。東京と川崎、いくつかのコンサートホールで演奏しました。交換公演のようなもので、日本の学生がイタリアに来ましたよ。
その次は2004年にUBSヴェルビエ音楽祭オーケストラのメンバーとしてです。シャルル・デュトワの指揮でサントリーホールでしたね。
ツアーは本当に楽しみにしているんですよ。LFOは日本に1週間ほど滞在すると思うのですが、今回は京都に行くのも楽しみですね。行ったことがある仲間が、とても美しくて、歴史がある町だったと皆口を揃えて言うんですよ。京都に行って、自分自身の中に新たな印象を発見したいと熱望しています」


聞き手・文・写真: 松本 學(音楽評論家)


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