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今年のザルツブルク音楽祭では、エル・システマ関連の公演が複数もたれた。まずはその全貌をざっとご覧いただこう。
■7月24日:祝祭大劇場
グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団
エミリー・マギー、ペトラ・マリア・シュニッツァー、アンナ・プロハスカ、イヴォンヌ・ネフ、ブリギット・レンメルト、クラウス・フローリアン・フォークト、デトレフ・ロート、ローベルト・ホル、superar合唱団、ザルツブルク音楽祭および劇場児童合唱団、シモン・ボリバル青少年合唱団、ウィーン楽友協会合唱団
マーラー:交響曲第8番変ホ長調
■25日:祝祭大劇場
ディエゴ・マテウス、クリスティアン・バスケス指揮ベネズエラ・テレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ
チャイコフスキー:幻想序曲《ロミオとジュリエット》
ベルリオーズ:劇的交響曲《ロミオとジュリエット》作品17(抜粋)
プロコフィエフ:バレエ音楽《ロミオとジュリエット》作品64(抜粋)
バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.16
チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
■26日:モーツァルテウム
トーマス・クラモール、フアン・ゴリン、ロウルデス・サンチェス指揮
ベネズエラ・ブラス・アンサンブル、シモン・ボリバル国立青少年合唱団
ヴィクトリア、バード、モンテヴェルディ、バッハ、ヘンデル、ブルックナー、ラフマニノフ、ランダル・トンプソン、ガーシュウィン、マルタン、バーンスタイン、ペンデレツキ、セサル・アレハンドロ・カリージョ、ジャンカルロ・カストロ、アンヘル・サウセ、アントニオ・ラウロ、パブロ・カマカロ、アンヘル・グアニパ、フアン・カルダレージャ&アレハンドロ・スカルピーノ、ゼキーニャ・ヂ・アブレウ、エリック・ウィテカー
■27日:ザルツブルク空港Hangar-7(空港格納庫)
ゲラルト・ヴィルト指揮superar(2回公演)
シモン・ボリバル国立青少年合唱団員
■28日:フェルゼンライトシューレ
ディートリヒ・パレーデス指揮エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 作品96
交響曲第9番変ホ長調 作品70
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 作品64
■30日:祝祭大劇場
グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団、合唱団
アンナ・ラーション、ザルツブルク音楽祭および劇場児童合唱団
マーラー:交響曲第3番ニ短調
■8月1、2日:ザンクト・ペーター
グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団、合唱団
アンナ・プロハスカ、ロベルタ・インヴェルニッツィ、マウロ・ペーター、フローリアン・ベッシュ
モーツァルト:ミサ曲ハ短調 K427
■3日:祝祭大劇場
グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル交響楽団
マーラー:交響曲第7番ホ短調
■5日:モーツァルテウム
シモン・ボリバル弦楽四重奏団
ヒナステラ:弦楽四重奏曲第1番 作品20
バートウィスル:バッハ《フーガの技法》から3つのフーガ|コントラプンクトゥス第7、12、17番
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番ハ短調 作品110
ラヴェル:弦楽四重奏曲ヘ長調
■7日:モーツァルテウム
クリストフ・コンツ、ヘスース・パラ指揮ベネズエラ国立児童交響楽団員
およびモーツァルテウム・モーツァルト児童オーケストラ(公開練習)
マリー・ゾフィ・デッカー=ハウツェル(ピアノ)
モーツァルト:交響曲第4番ニ長調 K19
ピアノ協奏曲第12番イ長調K414~第1楽章
アルベルト・G. M. アルテス:チャマンボ
■8、9日:モーツァルテウム
ナイベス・ガルシア、ルイス・チンチージャ指揮ホワイト・ハンド・コーラス
ラッター、アトス・パルマ、セサル・アレハンドロ・カリージョ、モーツァルト、ビロ・フロメタ、ビルヒリオ・アリエタ、フランシスコ・セスペデス、アデリス・フレイテス、ピアソラ、オスカル・ガリアン、アンヘル・ブリセーニョ、ハスラー、ジョビン、ホセ・フェルナンデス・ディアス、リシャール・エギュエス、エドガール・マヒアス
■10、11日:フェルゼンライトシューレ
サイモン・ラトル、ヘスース・パラ指揮ベネズエラ国立児童交響楽団
ガーシュウィン:キューバ序曲
ヒナステラ:エスタンシア 作品8a
マーラー:交響曲第1番ニ長調
以上、全16公演が催され、さらにこの他にシンポジウムなども行われた。
“ザルツブルクとエル・システマ”というと、やはり2008年にドゥダメルが初めてこの音楽祭に招かれた際のことを思い出す。あの時も全部で6公演が行われたが(シンポジウムなどを含む)、団体として登場したのはシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ(現在の名称はシモン・ボリバル交響楽団)のみで、室内楽やブラス・アンサンブルも同じ団体のメンバーからという具合だった。
しかし今回は違う。シモン・ボリバル響だけでなく、同響に変わって今のユース・オケとなったテレサ・カレーニョやカラカス・ユース・オーケストラ、さらには児童部門のオーケストラに合唱団までをまとめて招聘。この太っ腹ぶりは、さすがザルツブルクである。
なお、24日と27日に名前が挙がっているsuperarというのは、ウィーン・コンツェルトハウスとウィーン少年合唱団、カリタス・ウィーンが2010年に起ち上げた組織で、子供や青年の日々の生活に音楽やダンスを取り入れようという運動。これもエル・システマをモデルにしている。したがって、今回のザルツブルクでは、本家を招いての合同祭といった側面も含む。
プログラムも凄い。シモン・ボリバル響が、マーラーの交響曲3、7、8番という、この作曲家の中でも特に大作かつ難曲をほぼ1週間のうちにこなすというのは、メンバーの数こそ多いとはいえ驚異的だ(さらにこの3公演は、ウィーン・フィルやバイエルン放送響、ゲヴァントハウス管などと並んで、音楽祭のマーラー・ツィクルスの一環に組み込まれてもいた)。また、バルトークのオケコンにチャイコフスキーの4番、さらにプロコフィエフ、ベルリオーズ、チャイコフスキーの《ロミオとジュリエット》を付けるという、テレサ・カレーニョのラインナップも超重量級。これらがどのような仕上がりだったのか気になるところだが、あいにく筆者は立ち会うことができなかった。
ここでは、幸いに聴くことができた最終回8月11日のベネズエラ国立児童交響楽団についてリポートしておこう。指揮を務めたのは、何とあのサイモン・ラトルである。
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開場後、いつものように客席に向かう中、まず驚いたのはステージ上に並べられた椅子や譜面台の数だ。会場となったフェルゼンライトシューレというホールは、ステージが横に広く長い。そのため、たとえばカーテンコールでは指揮者が袖に戻り切ることはなく、途中で再び中央に戻ってくるようなサイズなのだが、この日ばかりは端までびっしり。正確に数えたわけではないが、コントラバスだけで17人ほど、ファゴットは7、ホルンは16、トランペット18、トロンボーン10といった陣容で、もう見るだけで圧倒される。
ステージに登場した子供たちは、年齢枠が7~16歳というだけあって、お兄さん・お姉さん組から、かなりの年少組まで揃っている。写真をご覧いただければ一目瞭然だが、チェロのトップは小学生の低学年のよう(ちなみに彼、背が低いので前に座っているのかと思ったが、実際なかなかの腕前だった)。
プログラムは、最初のガーシュウィン《キューバ序曲》と後半のマーラー第1交響曲がラトル、中プロのヒナステラ《エスタンシア》をベネズエラ出身の若きヘスース・パラ(Jesús Parra)が指揮した。噂によると、この日はパラの19歳の誕生日とか。
《キューバ序曲》は、さすがに若さと勢いを感じさせる演奏で、たっぷりと歌う際の弦など、人数の多さもあってかなりの厚みを感じさせる。ブラス陣や木管勢も達者で、それぞれのソロをよく吹きこなしていた。そして早くもこの段階で、シモン・ボリバルのお家芸が登場。コントラバスがピッツィカートの際に、天下のラトルを前に得意の楽器回しを披露していた。
《エスタンシア》では、緊張からだろうか、パラの指揮はどこかこぢんまりとしていたものの、冒頭の弦の鳴りなどなかなか充実しており、その後のノリもよい。ラストは全員が踊り出すいつものパターン。
休憩を挿み、後半はいよいよマーラー。さすがにこちらはピッチをはじめ、弾くので精一杯という感が否めず、いささかスポーツ的な演奏ではあった。それでもラトルはフレーズを整え、輪郭線をくっきりと付けることでアンサンブルをまとめるだけでなく、誠実に子供たちに音楽を伝えようとしており、音色やニュアンスなども彼らから可能な限り引き出そうとする。その姿からは、ラトルの父性をも垣間見るようで感動的だった。彼らもとりわけ第2楽章でのデュナーミクなどは、ラトルの求めによくついてきていたと思う。
演奏後は、弦楽器の最前列のメンバーが次々にラトルの首にガーランド(レイ)をかけて感謝を表していたが、先の最年少らしいチェロのトップの子は、ラトルに抱き上げられたりもしていて、何とも微笑ましい風景。
満場の喝采に応えてのアンコールは、ラトルの指揮でバーンスタインの《ウェスト・サイド・ストーリー》から〈マンボ〉。ラトルは聴衆に「マンボ」のかけ声の練習をさせて、会場全体の気分を一層高めるサーヴィスも。〈マンボ〉の後はパラを呼び、「エスニックなラテン・アメリカの典型的な曲を最後に演奏します」と客席に話しかけ、彼にその指揮を任せてラトルは退場。しかし演奏されたのはなんと《ラデツキー行進曲》で、会場は爆笑の渦に包まれ、さらに盛り上がっていた。
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~エル・システマが日本にやって来る~
エル・システマ・フェスティバル2013
<会場>
東京芸術劇場
<出演>
管弦楽: エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス(EYOC)
指揮: ディートリヒ・パレーデス(EYOC音楽監督・10/10、10/11公演)
レオン・ボットスタイン(10/12公演のみ)
独奏: 萩原麻未(ピアノ)、エディクソン・ルイス(「エル・システマ」出身、コントラバス)、カリム・ソマザ(EYOC団員、クラリネット)
<日時・曲目>
■2013年10月10日(木)19:00
~日本ベネズエラ外交樹立75周年記念ガラコンサート~
曲目: 藤倉大:Tocar y Luchar(奏でよ、そして闘え)
モーツァルト:クラリネット協奏曲イ長調K.622(独奏:カリム・ソマザ)
モーツァルト:木管楽器のための協奏交響曲 変ホ長調 K.297b
マッティンソン:コントラバス協奏曲 (独奏:エディクソン・ルイス)
■2013年10月11日(金)19:00
曲目: ヴェルディ:「運命の力」序曲
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調op.64(ピアノ:萩原麻未)
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64
■2013年10月12日(土)18:00
曲目: ヴェルディ:「運命の力」序曲
モーツァルト:木管楽器のための協奏交響曲 変ホ長調 K.297b
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 ハ長調 op.60「レニングラード」
<料金>
各日共:S席7,000円、A席6,000円、B席5,000円、C席3,000円、D席1,500円
<発売日>
◎カジモト・イープラス会員先行発売: 終了
◎一般発売: 7月2日(火)10:00より
【問】 東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296(休館日を除く10:00-19:00)
http://www.geigeki.jp/t/ (PC) http://www.geigeki.jp/i/t/ (携帯)
カジモト・イープラス 0570-06-9960(10:00~18:00土日祝も営業)
http://kajimotoeplus.com/ ●チケットのお申し込み
◎主催:駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使館、東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)、一般社団法人エル・システマ ジャパン
◎協力:EYOC日本ツアー支援委員会
◎招聘企画:KAJIMOTO
◎助成:平成25年度 文化庁 劇場・音楽堂等活性化事業、公益財団法人 朝日新聞文化財団
◎認定:公益社団法人企業メセナ協議会
★エル・システマ・フェスティバル参加公演★
2013.08.02