鈴木大介のギター・リサイタル「ピアソラ没後20年・フランセ生誕100年とブーランジェの弟子たち」が、ついに明日12/6に迫ってまいりました。本日は、連載最終回です!
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―対談の最終回ですので、今一度、リサイタルのプログラムについて順に話してみませんか。唯一、ブーランジェの弟子ではない作曲家がいますが、その意図は何でしょうか?冒頭のスカルラッティですね。スカルラッティの鍵盤ソナタの作品番号は“Kk.”で整理されていますが、これはご存じのとおり「カークパトリック番号」と呼ばれています。作品番号付をしたアメリカ出身の音楽学者ラルフ・カークパトリック(1911-1984)の名前にちなんでいるわけですが、彼はチェンバロ奏者としても活躍しました。実は彼、ハーバード大学でピアノや音楽学を学んだのちに、パリに留学しています。そこで師事したのが、ナディア・ブーランジェだったというわけです。
―スカルラッティもブーランジェ繋がりのプログラミングだったのですね!実は僕は、ザルツブルクでエリオット・フィスクに教えてもらったことがあるんです。スペイン出身のギター奏者でして、30曲ぐらいレッスンしていただきました。フィスクは先ほどの「カークパトリック番号」のラルフ・カークパトリックの弟子です。つまりブーランジェの孫弟子。
―大介さんにもブーランジェの教えを受け継ぐ音楽家との接点が実際にあったということですね。さらに、僕の師匠の福田進一先生は、パリのエコール・ノルマル音楽院のナルシス・ボネ先生のもとで、和声とアナリーゼを学んでいらっしゃいます。ボネ先生は、ブーランジェのアシスタントをされていた方。僕自身も、ボネ先生にレッスンしていただいたことがあります。非常に示唆に富んだレッスンでした。忘れられない経験です。
―ブーランジェの弟子たちに共通する特徴については前の連載(第2回)で少し触れましたが、大介さんが読んだブーランジェ関係の資料の中で、印象に残っている彼女の“教え”はありますか?ブーランジェは、「音楽に奉仕しないといけない、聴き手が演奏後に曲のことしか覚えていない位に」と言っていたそうです。聴き手が、演奏家のことも作曲家のことも忘れるぐらいでないといい演奏家とはいえないと。楽器やテクニックを作品=音楽表現へ向けてブラッシュアップしていくべきであるという考え方ですよね。逆の方向ではなく。ホールの広さや音響なども勿論大事ですが、まずは作品が何を要求しているのか、作品自体の美しさは何か、と問うてみる。そういったことが、歳を重ねることで少しずつ出来るようになってきているという実感はあります。
―リサイタル2曲目のフランセのパッサカリアはいかがですか?死ぬほど難しい曲なので、はやく安心したくて前半、はやめにプログラミングしました(笑)間違えるとバレてしまうシビアな曲。スケールが2分半ぐらい続いたり・・・難曲です。
―(笑)ジスモンチの「 セントラル・ギター」はいわゆる前衛的な作品。対してフランセの「セレナード」は可愛らしい曲です。今年惜しくも亡くなったエリオット・カーターの「SHARD」は彼が90歳を過ぎてから書いた作品です。僕は残念ながらカーターにお会いしたことはないのですが。
―後半は、ピアソラが続きますね。後半はギター1本でストーリーをいかに構築していくかが鍵になると思います。
―全体としていかがですか。以前に詳しく述べましたが(
第2回)、ブーランジェは自分の主義主張を押し付けるのではなく、生徒それぞれの個性を見つけて伸ばした方。古楽に携わる人、ジャズ奏者、カーターのように前衛作曲家に育っていった者たち・・・弟子たちのジャンルが多岐にわたったのもそのためです。音楽に対してどのように接するべきかを教えてくれる真の「音楽の先生」に出会えたからこそ、ピアソラの個性も埋もれずに救われました。こうしたブーランジェの姿が、結果として浮かびあがってくる公演になれば嬉しいです。
―12/6の公演、楽しみにしています。有難うございます!

<鈴木大介 ギター・リサイタル 2012>
~アストル・ピアソラ没後20年 ジャン・フランセ生誕100年とナディア・ブーランジェの弟子たち~
日時 2012年12月6日 (木) 19:00 開演
会場 サントリーホール ブルーローズ
出演 ギター: 鈴木 大介
料金 全自由席¥4,000
[プログラム]
ドメニコ・スカルラッティ: ソナタ集
ジャン・フランセ: パッサカイユ
エグベルト・ジスモンチ: セントラル・ギター
ジャン・フランセ: セレナード より~愛の歌/エピグラム/リリパット王国のファンファーレ
エリオット・カーター: SHARD
アストル・ピアソラ作品集
アディオス・ノニーノへのイントロダクション
平原のタンゴ
ブエノスアイレスの秋
バンドネオンとギターのための協奏曲から ~イントロダクションの断章
ブエノスアイレスの冬
ロマンティックなタンゴ
伊達男のタンゴ
ブエノスアイレスの春
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