いよいよ「
ポリーニ・パースペクティヴ2012」も後半戦に突入!しかし昨日はもう少し多くのお客様に聴いていただけたら・・・という気持ちが少し残ります。
が・・・、最初にジャック四重奏団が演奏した、ドイツの作曲家ラッヘンマンの「弦楽四重奏曲第3番・グリド(叫び)」は素晴らしい曲でした。素晴らしい・・・と言っても普通にイメージされるような“きれいで美しい”というわけではありません。何といいますか、ポリーニがこのプロジェクトで主張する「音楽の革新」を実感できる音楽だったとでもいうか。
そう感じることができたのは、ジャック四重奏団の驚くべき正確無比なうまさ、クォリティの高さに追うところが大です。「演奏が最上でなければ、特に現代音楽の場合、曲の真価がわからない」というのはつくづく真実だな、と思います。
ギリギリーッとノコギリをひくような、また楽器の木の部分をサ~~ッとなでる音などの「雑音」や、フラジオレット的な特殊奏法の音、それに暴力的な部分、瞑想的な部分、ありとあらゆる音と表現が交錯します。
それが行き当たりばったりに鳴るのではなく、他で経験したことのないような、確固とした新しい「世界」が形成されるのは驚きでした。そしてそれに立ち会う喜び!
さて、ポリーニの弾くベートーヴェンの方も、いよいよ後期ソナタへと進みます。今回は第28番と第29番「ハンマークラヴィーア」。
ポリーニの出すピアノの音色は回を重ねるごとに冴えをまし、キラキラとした明るさと輝きを加えている気がします。ただ、往時に比べれば、どうしても立ち上がりが遅かったり、思わぬ傷があったりするのは仕方のないことなのか・・・。
しかし今回もエンジンはまた後半にかかってきます。驚きを禁じ得なかったのですが、あらゆるピアノ音楽の中でも最も厳粛と言われる「ハンマークラヴィーア・ソナタ」の第3楽章アダージョの底知れない深遠さといい(まったく音楽も演奏も方向性が違うのに、先日ルプーが弾いたシューベルトの最後のソナタと共通するような深さを感じさせました)、フィナーレの、複雑な対位法が作りだす立体的で巨大な混沌の嵐を、なんと強く明晰で壮大な大伽藍として響かせたか!
これだけの力、エネルギーがこの70歳の老巨匠の一体どこから噴き出してくるのか、想像もつかない驚異でした。
長くマエストロ・ポリーニと仕事をさせてもらっている我々スタッフですが、それにこの「ハンマークラヴィーア・ソナタ」ももう何度も接しているわけですが、今回の特にこの後半2楽章は記念碑的な演奏だと思います。
前回感じた通り、果たして今のポリーニに後期ソナタは相応しい気がします。第28番、29番の緩徐楽章では以前より一段も二段も深まった澄み切った世界をポリーニは響かせていました。聴いているとなかなか現実の世界に戻れなくなってしまうくらい深い世界を体験するにつけ、今度の回で弾かれる最後の3つのソナタはどれだけの、それこそ革新的なくらい深遠で、なおかつ前人未到の高みに達した世界になるのではないかと、ちょっと怖いような気がしてきました。
11/13(火)の「ベートーヴェン-シャリーノ」の回にご期待下さい!
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ポリーニ・パースペクティヴ2012 特設サイト