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2012/09/21 | KAJIMOTO音楽日記

●トゥールーズ・キャピトル国立管の13年シーズンがスタート:ショスタコーヴィチで攻める!

今年12月に来日するソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管が、去る9月15日、ソリストに巨匠メナヘム・プレスラーを迎え、新シーズン初の公演を行いました。
ラインナップは、モーツァルトのピアノ協奏曲、そしてソヒエフの鼓舞により今やオーケストラの“十八番”となったロシア音楽の王道、ショスタコーヴィチ。

(ちなみに日本ツアーでは、バラキレフ、リムスキー=コルサコフ、ストラヴィンスキーというロシアが誇る3巨匠の個性を、このコンビがいかに演奏し分けるのか、注目したいところですね)

この開幕公演の様子が、サイト「Culture31」(原文)で詳細にレポートされていますので、その一部をご紹介することにします!


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トゥールーズ・キャピトル国立管(ONCT)の2012/13シーズン開幕公演。ソリストとして登場したのは“あの”ボザール・トリオの生みの親として知られるピアノ界の伝説的巨匠、メナハム・プレスラーである(略)。[後半には、] ソヒエフが愛情を注ぐONCTが、マーラーからの影響が最も濃厚にみられるショスタコーヴィチの交響曲第5番を5年ぶりに披露した。

モーツァルトの協奏曲第17番では、間もなく90歳を迎える小柄なピアニストが、ソヒエフに抱えられるかのごとく、ゆっくりと歩みを進めた。ソヒエフ率いるONCTは完全にソリストの使者となり、時には目立たぬことも覚悟のうえで、プレスラーの演奏を出来る限り支えようと伴奏に徹する。

我らが小さな妖精エルフは(略)、モーツァルトを、長い旅路から帰還してややくたびれてしまった一羽のナイチンゲールのように、優しく、愛情をこめて、小声で歌う。彼がメランコリックなアラベスクを紡ぐ様を聴くには、耳を、そして魂をそばだたせねばならない。

鍵盤を軽く触れることで生じる、彼の水晶のように清いタッチは、かすかな煙のごとき“ささやき”であり、秘密の告白である。(略)

ソヒエフは終始、プレスラーのために配慮の行き届いた柔和な絨毯を敷いていく。それでも、内なるささやきに徹するソリストとエネルギッシュなオーケストラを折り合わせるのは至難である。

しかしそれも、詩情にあふれた優しき巨匠の束の間の登場という魔法の時をかんがみれば、重要なことではないだろう。アンコールで披露されたショパン2曲は――夜想曲は言葉では言い表せない素晴らしさであった――歌の翼に乗って空へと昇っていった。





(略)
オーケストラにとって最良の公演のひとつとなった今回の公演でソヒエフは、聴く者の心を揺さぶろうとしていた。一見すると古典的な形式と音楽言語で書かれているものの、深淵へと開かれているこの4楽章から成る作品において、ソヒエフはその意図を達成していた。

第一楽章(モデラート)が開始するとすぐに、ソヒエフは聴く者の心を巧みにつかんでくる。弦楽器群は深く、そして苦悩をもって響き渡る。それはしばしば、この曲の背後に見え隠れするマーラーの第2交響曲の冒頭をも示唆するが、この第5番では復活の希望は絶たれてしまっている。旋律の断片だけが、強烈な悲嘆と熱烈な喧噪を、陰鬱なあゆみで通り過ぎていく。ソヒエフは、続く第2楽章(アレグレット)を、マーラーの第2交響曲のスケルツォと対を成すものとして提示して見せた(略)。フルート、ヴァイオリン独奏、そしてあの奇妙なハーモニーが織り交ざると、今でかつて経験したことがないような時が流れた。

この交響曲のクライマックスは、第3楽章(ラルゴ)の嘆きに満ちた死のごとき場面だろう。この悲嘆の想起は、長い長いフレーズによって描かれるが、それは決して途切れることのない“一息”での表現を要求する。こうした瞬間にこそ、ソヒエフやONCT のような奏者たちの演奏を聴けることへの大きな喜びを意識する。彼らは人類に対する苦い瞑想の時――それは深い苦悩によって引き伸ばされる――を高みに引き上げてくれるのである。

ショスタコーヴィチ自身が「オプチミズムと生きる喜びへの解決」と述べたこの作品の最終楽章は、まるで体制への毒を含んだオマージュのように、おめでたく陳腐で空疎である(略)。そしてその誇張された表現によって、この「劇」はスターリンによる粛清の惨い真実を暴いていく。だからこそ、大音量で作動する“舞台装置”は覆い隠された叫びとなる――オーケストラほぼ全体で252回も繰り返される甲高いラの音がそれを証明する。そして金管楽器が奏でるあまりにシンプルなメロディは、すぐにこれにかき消される。勝利の行進は“ぺてん”でしかないから。

壮麗なオーケストラに支えられたソヒエフは、それらを全て理解していた。2007年に彼らがこの交響曲を演奏した時よりもいっそう、この難解で鋭利で魅惑的な作品の深く卓越した音楽解釈が提示されていた。[ソヒエフのような] ロシア人こそが、この交響曲の深い重要性と、この作品に込められたあらゆるメッセージを理解するのだ。
 

(Gil Pressnitzer)



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トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団 2012年12月 来日ツアー
トゥガン・ソヒエフ(指揮)
諏訪内 晶子(ヴァイオリン)

■2012年12月8日(土・祝) 19:30 横浜/横浜みなとみらいホール 【プログラムB】
【問】横浜みなとみらいホール 045-682-2000

■2012年12月10日(月) 19:00 東京/サントリーホール 【プログラムA】
【問】カジモト・イープラス 0570-06-9960

■2012年12月11日(火) 18:45 名古屋/愛知県芸術劇場コンサートホール 【プログラムC】
【問】中京テレビ事業 052-957-3333

■2012年12月13日(木) 19:00 新潟/りゅーとぴあ コンサートホール 【プログラムA】
【問】りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521

■2012年12月14日(金) 19:00 京都/京都コンサートホール 【プログラムD】
【問】京都コンサートホール 075-711-3090


【プログラムA】
ベルリオーズ: 序曲「ローマの謝肉祭」 op.9
サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 op.61 (ヴァイオリン:諏訪内 晶子)
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ベルリオーズ: 幻想交響曲 op.14

【プログラムB】
バラキレフ(リャプノフ編曲): 東洋的幻想曲「イスラメイ」
ストラヴィンスキー: バレエ「火の鳥」組曲(1919年版)
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リムスキー=コルサコフ: 交響組曲「シェエラザード」 op.35

【プログラムC】
ベルリオーズ: 序曲「ローマの謝肉祭」 op.9
ラヴェル: ボレロ
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ベルリオーズ: 幻想交響曲 op.14

【プログラムD】
ベルリオーズ: 序曲「ローマの謝肉祭」 op.9
サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 op.61 (ヴァイオリン:諏訪内 晶子)
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ストラヴィンスキー: バレエ「火の鳥」組曲(1919年版)
ラヴェル: ボレロ
 

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